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先人の知恵 by 濱田耕司



第6話「柿渋使ってます」

 今、四季のあるこの日本では最も美しい季節を迎えていますが、皆さまは紅葉を楽しまれたでしょうか?
夏が過ぎ、少し涼しくなってくる秋、いろんなところで橙色の柿の実が見られます。それも約1,000品種もの柿が日本にはあるそうで、これらは甘柿と渋柿に大きく分けられます。渋柿をかじったことのある人は、あの渋みがお分かりかと思います。
渋柿の渋さは、可溶性タンニンのためで、そのタンニンが舌の粘膜タンパク質を凝固させるために[ひきしぼる]ような渋さを感じさせるのです。
 現在、「柿渋」の知名度は非常に低いのですが、昔(中世以降)は、生活に密着した素材だったようで、北海道、沖縄以外の農村・漁村の家の庭先で柿渋は作られていたと言われます。
 この防腐効果や、乾いて防水性を発揮する性質を生かして、様々に利用されていたのです。今では柿渋を身の回りで見るどころか、名前さえ聞くこともありませんが、近年、自然志向の高まりもあり、自然塗料としてクラフトなどに用いられ、見直されています。
また、シックハウスの原因であるホルムアルデヒドを吸着する作用があることも実験により証明されています。N−Basicでも、無垢のフローリングや建具、造作家具には必ずと言ってよいほど、柿渋を塗布して仕上げています。
 柿渋は、漆器製造の際、漆の下地に塗られたり、漁民にとって高価だった漁網の強度向上のための網染め染料、酒づくりの際の酒袋の補強・染色材などの用途や、団扇・和傘、船の船底に塗られるなどに使われてきました。また、中風、高血圧の民間療法の薬としての面もあったようです
 最近では、その独特な風合い・発色をいかして布地の染色や、自然素材の塗料として使われています。酒袋の独特の色合いを好んで、バッグなどに再利用されたりもしているようです。変わったところでは、化粧品の材料としてや、消臭剤などとして用いられます。
柿渋には防水・防腐・防虫効果などがあり、塗布物の繊維質に吸収され乾燥後に不溶性物質をつくり、収斂性(しゅうれんせい:引き締める性質)を発揮します。
 塗布(乾燥)直後の色は、ごく薄いものですが、光にあてるほど、また時間とともに濃い茶色に発色していきます。ショールームの建具もオープン時に全て柿渋を塗布しました。当初は水で薄めて塗ったので、白木の色だったものが、今では柿渋の独特の赤みが色づいてきました。
「渋」というものは、植物が動物などから身を守るために持っている物質だということをどこかで読んだことがあります。柿渋も柿の種子が未成熟なうちに動物に食べられてしまわないための自己防衛のためのものなのでしょう。
 昔の人はよくもまあ、こんな不思議なものを見つけて利用方法を考え出せたものだと思います。
 現代には、塗料・染料・防腐剤など、効果の面では柿渋を遙かに凌ぐものがいくらでもあって使われています。実際に柿渋でなければいけないという用途はあまり無くなっていて、次第に柿渋は忘れられる存在なのかもしれません。
 柿渋染めなど、その色合いだけを(ファッション的な意味で)使われ、流行している風潮もありますが、本来植物の自己防衛のための物質を、人が自分たちの生活に取り入れていた事実が注目すべき興味深いことで、忘れてはならないことなのかもしれません

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